第六回 大法要の仏具(其の一)

 今回は御遠忌の最終行事、御満座(ごまんざ)法要についてお話をさせていただきます。
 結讃法要とも呼ばれ、正式には「結願日中法要」という名称です。「満」、「結」、この言葉が表すように御遠忌のフィナーレを飾る大法要です。
 法要が始まる前に、楽僧と准堂衆(じゅんどうしゅう)と呼ばれる僧たちが外陣に並びます。
 楽僧は言葉の通り、楽(がく)を奏でる僧侶のことで、准堂衆は、大きな声で法要を盛り上げる声明のプロとも言える僧侶です。
 定刻になると堂内に楽が鳴り響きます。①着座楽
 そして、法中(ほっちゅう)と呼ばれる僧侶たちが、木靴のようなもの〈写真〉を履いて内陣に出仕をします。この靴のようなものを挿鞋(そうかい)と呼びます。挿鞋というのは仏の行事専門ではなく、もとは雅楽でも用いられる履き物です。
法中たちは順番に出仕し、中央の阿弥陀様の両脇に並び、挿鞋を脱いで畳の上に座り始めます。
 楽は鳴り続き、やがて、最後の人物として、法服七条下袴姿の山主が姿を見せます。最後ということで真打ち登場という感じですかね。山主が着座をしおわったあと着座楽が止まります。
 山主というのは法要を行う寺の住職のことです。昔から寺には「山号」というのがあります。身延山、比叡山、高野山が有名ですね。本山という言葉も、寺の元締めというところから出ています。ちなみに、蓮徳寺は一葉山です。
 出仕される法中自身、どこかのお寺の住職ですので、区別をするために法要の時、山主と呼びます。
 楽が終わると、山主を筆頭に合掌が始まり、その合掌を終えると同時に大きな声が外陣の方から響いてきます。
 伽陀(かだ)と呼ばれるもので、仏典中に用いられる漢文の詩に曲節をつけて歌い上げます。その声を出すことを発声(はっせい)と呼びますので、儀式の始まりの発声みたいなものだと思ってください。
 伽陀が終わりますと、楽が鳴ります。②登高座楽
 そして、しばらくすると山主が立ち上がり、中央の阿弥陀様の目前に向かって歩いて行きます。そこには、登高座という仏具一式が用意されています。
 中央に畳の乗っている礼盤(らいばん)、前机と脇机、そして右横に分銅のようなものがついた台によって構成されています。写真で見るとわかると思いますが、ちょっと特殊な形をしていますね。正式には磬(けい)台と言います。先っちょが丸い棒のようなものが撥(ばち)です。
 これらは仏様への給仕には必要なもので、色、形は違っていますが、本願寺だけではなく、どこの宗派にもあります。
 その高座の一式とは別に、前回、説明をした数衣香炉箱があります。二箱あり、一つの箱の上には三衣袋、もう一つの箱の中に柄香炉という名前の香炉が入っています。柄香炉は写真の通り蓮をかたどっています。柄が茎と葉、香炉をたく部分は蓮の花びら、蓋は蓮の実をかたどっています。
 山主は、その香炉を数衣香炉箱から取り出し、仰ぐような姿勢で両手で持つと大きく中尊に向かって、うやうやしく一礼をします。そして、膽仰(せんごう)後に、座具をとって上に登ります。山主が高座に登り終わると登高座楽がやみます。
 楽が終わると、山主は柄香炉を横の机におき、前卓の真ん中に置いてある金香炉を用いて焼香をします。
 その後、ばちで磬をうやうやしく打ち、柄香炉を両手で持つと、壇上で三帰依(さんきえ)を始めます。三帰依というのは仏教の基本の儀式です。お釈迦様は、弟子たちに「三宝に帰依せよ」と教えられたと伝えられています。日本でも聖徳太子が制定された『十七条憲法』の中に「篤(あつ)く三宝を敬え」というお言葉があります。そして、「三宝は仏・法・僧なり」と説明をしています。
 つまり、この三宝を敬うために。山主は偈文(げもん)を唱えながら、三度、香炉を持ち中尊に真向かいになり、立ち上がり、跪(ひざまず)き礼拝を繰り返します。
 三帰依が終わると、山主は表白(ひょうびゃく)を読み上げます。この表白というのは、法要前に行う挨拶文のようなものです。法要を勤めることができた感謝と、今まさに仏の教えに出会うことができた感動、そして、今後の願いを古風な詩のような形にして語られるのです。
 次に二番目の伽陀が外陣から発声されます。そのとき、お経が始まる準備として、加役(かやく)と呼ばれる僧侶が、法中にお経本を配ります。黒子が芝居の小道具を持ってくるという感じでしょうか。
 お経が始まると堂内は、にぎやかになります。准堂衆の打つ音木を中心に法中たちの読経がリズミカルに堂内を包みます。音木は僧侶たちの声をそろえるために打つのです。今回は、相打ちといって、一人の僧侶が巻物のお経を持ち、二人の僧侶が息を合わせて音木を打ちます。
 お経が終わると三番目の伽陀が外陣から発声され、加役が経本を回収します。その伽陀が終わると、次の楽が始まります。③賦華籠楽(ふけこがく)
 楽の途中に、役稚児たちが華籠皿(けこざら)をもって内陣内に現れます。そして、その華籠皿を法中に手渡し、本堂裏に戻ります。
 楽が終わると、次のお経が始まります。この時のお経は音木は用いません。行道の儀式専用のお経ですので、かなりゆっくり読むことになり、音木がなくても合わすことができるからです。
 さてお経の途中に華籠皿を持った法中たちが立ち上がり行道(ぎょうどう)が始まります。法中たちは本堂の内陣を回り始めると、中尊前などで華籠皿に入っている葩(はなびら)を放り上げるように蒔きます。これを行道散華(さんげ)といいます。
 三周目になりますと、法中たちの間に役稚児が入ります。そして、同様に中尊前で散華をします。
 何周か行道散華を行うと、役稚児は本堂裏に退出します。その後、法中だけで最後の一周をまわり散華は終わります。
 法中が畳に戻られると、次の楽が始まります。④撤華籠楽(てっけこがく)兼下高座楽。
 その楽の途中に役稚児が華籠皿を引き取りにきます。
 役稚児が本堂裏に戻ると、山主が高座から降ります。そのとき山主は、登壇をさせていただいた感謝の気持ちを込め、柄香炉を持って礼拝を大きく三回します。その後、堂内を一周して自分の座っていた席に戻ります。
 ここまで時間にして約1時間強、法要の途中ですが、ひとまず休憩をさせていただきます。