第五回 稚児行列の仏具

 今回は、御遠忌の一大行事、稚児行列に用いる仏具についてお話をさせていただきます。
 稚児行列は、先頭に行列を指揮する僧侶(式事)、寺の関係役員が仏旗を持って歩きます。
 仏旗は一番目の写真の通り、左から緑、黄、赤、白、紫の順番になっています。この五色は、大きな法要の時に本堂前に掛けられる五色幕と同じ配列です。
 そして、右端に同幅で五色が縦に並んでいます。この六行が仏旗の六色です。緑は仏の髪の毛、黄は仏の身体、赤は仏の血、白は仏の歯、紫は仏の袈裟(けさ)の色、最後の五色は、その御仏のお姿が輝きとなった証の色です。仏旗の六色は、お釈迦様の教えがこの世に広められるということを象徴しています。
 しかし、現在では新仏旗の配色になっているようです。髪は緑より髪っぽい青に変わりました。袈裟の紫についても考え方が変わりました。
 袈裟というのは、梵語の「壊色(えしき)」を意味するカーシャーヤ(kaṣaya)がもとで、帰依したものが身体の一部分につけるものです。
 昔から我が国の仏教は聖徳太子の教えをもとにしていました。その聖徳太子の政策の一つとして「冠位十二階」というものがあります。徳、仁、礼、信、義、智の六位を大と小の二つに分けたものです。一番下が小智と呼ばれて色は淡黒、灰色ですね。最上の位は大徳と呼ばれて紫色です。
 僧侶たちも、同じように位が高いものは紫色の法衣や袈裟を羽織るようになりました。だからこそ、紫が仏の袈裟の色あつかいだったのです。

 近年になって国際的な世の中になり、チベット・タイの僧侶たちの着ている衣裳である壊色(少し濁った橙)こそが、仏の袈裟の色にふさわしいということになりました。
 チベット最高位のダライ・ダマも、托鉢をしている低位の僧侶たちも同じ色の衣を着ています。
 つまり、身分の差別をしない壊色こそ、仏の教えの本来の姿ということをあらわしているのです。実際、すでに青、黄、赤、白、樺を仏旗を用いている宗派もあります。

 さて仏旗を持つ役員のあとには、役稚児、楽僧が続きます。そして、大勢の一般稚児たちが僧侶たちに交じって、練(ね)り歩きをします。この僧侶たちを法中(ほっちゅう)と呼びます。
 その行列は長く続き、しんがりに寺の山主(さんしゅ)である住職が寺の役員が掲げた朱傘とともに現れます。朱傘というのは、よく時代劇にでてくる大きな赤色の傘です。仏具というよりは、お茶の野点(のだて)や歌舞伎などに使う日本伝統の小道具ですね。
 山主の横には数衣香箱(すえこうばこ)を手に持った付き人の僧侶(加役)がつきます。数衣香箱は二番目の写真のように、真鍮地に金メッキ細工がされたものです。 この箱の中に三衣袋(さんえぶくろ)に入った袈裟を入れ加役が持ち歩きます。山主の着ている袈裟が破れたりして、行列ができなくなる万が一の予備です。
 この箱は赤金襴布の中張に横面に二つ、縦面に一つの法輪が彫られております。法輪、これも仏旗と同様に仏教のシンボルです。仏教会はこの法輪を紋章としていますし、当寺も納骨堂に、この法輪をつけています。

 その形はインドの武器チャクラムを形取ったもので、お釈迦さまの教えが、光となって悪業煩悩(あくごうぼんのう)を駆逐する光景をあらわしたものです。
 横面の法輪の間に弁才天が彫られています。弁才天も戦闘神の1人で、戦うときは剣を持ち、奏でる琵琶の音で悪い物を払うと言われています。つまり、この金色に輝く箱をかざすことによって、煩悩を断ち、仏の教えを広めていることになるのです。
 前に仏旗、後に数衣香箱という仏たちの光に包まれ守られた子供たちは、仏の教えを次世代に伝える使命を持った大切な宝であります。その大切な宝を御仏のご縁に出会わせていただくことが、この稚児行列という儀式の意義ではないでしょうか。

 三衣袋というのは、托鉢に使う頭陀袋(ずだぶくろ)を大きくしたようなもので、金襴の布地でできています。模様はさまざまで、決まった模様はありません。
 三衣袋の三衣は小衣、中衣、大衣のことです。インドの僧侶たちの服装がもとで、小衣は下着というか腰に巻く布のようなものです。中衣は普段の衣、大衣は大きな集まりとかに着る公式行事用の衣裳のようなものでしょうか。
 通仏教では、小衣を五条袈裟、中衣を七条袈裟、大衣を九条袈裟としてあつかっています。
 当宗派では半袈裟、輪袈裟、畳袈裟、五条袈裟、七条袈裟があり、法要の軽重で使い分けています。お説教師は畳袈裟を用いることが多いです。一見、輪袈裟に見えるのですが、実は下にひもがついています。それは、この袈裟を広げると五条袈裟になることを意味しています。
 五条袈裟以上は法事など重い法要に用います。稚児行列に参加されている法中の衣体は、この五条袈裟です。(地方によっては法要を重く見て、法中全員が七条袈裟を着用されるところもあります。)
 では、次にその七条袈裟の説明をさせていただきます。三番目の写真でわかるとおり、七条袈裟はほとんどが金襴地で、紋章のたぐいではありません。極楽浄土の様子が縫い込められているのです。赤い紐みたいなものは修多羅(しゅたら)と言い。これは。お経の文が具現された物です。
 この七条袈裟は当宗派では最高の荘厳衣体です。御遠忌以外では、お葬式のとき導師が着用します。
 昔からお葬式には、導師が焼香や読経をするときには、必ずこの七条袈裟が用いられてきました。それは亡くなられた人をお浄土に送る大切な儀式がお葬式でもあり、参列される皆さんも最高の衣服、礼服を着られるように、住職はこの最高の衣体、七条袈裟を用いたのです。
 しかし残念なことに、最近では七条袈裟を用いることができず、代替えとして五条袈裟を着用することもあります。その理由は七条袈裟は複雑すぎて導師1人では着られないのです。にもかかわらず、この袈裟をつけるのに必要なお付きの僧侶(お役僧)を、質素な葬式をしたいということで断られる方がいるのです。葬式の真の意味を知らないとは言えまったく、嘆かわしいことです。
 さて、稚児行列の話に戻ります。先頭の稚児が寺の山門をくぐると同時に梵鐘が鳴り始まります。そして、山主が行列の最後として山門をくぐり、親鸞聖人に焼香をするため本堂内に入場すると、その今まで鳴り響いていた梵鐘が止まります。そして、この稚児行列の終わりとなるのです。
 次回は、稚児行列が終わったあとに行われる本堂内の大法要のお荘厳についてお話させていただきます。