第五十五回 お内仏の荘厳(前卓三)


 今回は前卓の材質からです。前卓は木で作られております。こちらも、プラスチックでできたものも存在しますが、あくまでも木が主流なので、その話となります。(写真上)
 まずは、形づくりで三つに部分を作ります。一番上は下水板(げすいた)これは、下須板と書かれている本もあります。天板の上にのせる板です。鬼の角のような筆返し(ふでがえし)というのが上についております。
 次に本体、三つ目の部分として、脚をはめ込む台があります。この台を猫足台と呼ぶこともあります。
 このように三部分にわかれているのですが、一番手間暇をかけるのは本体です。脚の曲がり作り、表面の菊の飾り、様々な技術力がいります。
 白木の地を作ったとあとに漆(うるし)を塗ります。漆黒の言葉通り黒い成分です。塗料ではないので間違えないように。
 では、まずはこの漆の話からさせてもらいます、漆は英語では、japan、と呼ばれています。江戸中期にjapanningと呼ばれていた名残りです。
 きれいに磨きながら重ね塗りをすると、蝋色(ろいろ)といって、神秘的で鏡のように映る黒いガラスが貼ってあるような、素晴らしい光沢を放ちます。そしてその名称の由来は、光(陽)と影(陰)の結合を具現した日本の文化を畏敬の気持ちで表したから、と伝えられております。写真は漆面に前卓の一部分が黒地に浮き上がるように写ってます。
 前卓に塗る場合は下地あつかいですので、そんなに重ねて塗りませんが、この漆が必要となります。
 なぜなら、金箔を貼るには必ず地が必要だからです。金箔は接着する地(媒体)がないと上に貼ることはできません。この地に漆類を用いるのです。話によると、現代では特殊な科学箔糊(はくのり)が開発されたそうですが、それを使ったら、修復が不可能な仏具となります。あまり、激安なものには、横紙破りの、科学箔糊が使ってある場合がありますので【注意】をしましょう。
 白木の彫物ができると、その上に漆を塗ります。漆を塗ると真っ黒になります。以前に前卓の裏が黒くなっている、お内仏もあることをお話ししました。下水板を内敷(うちしき)をはずしたあと、うっかり、前後ろを逆にしてしまったので、板だけが黒い、おかしな感じになったことを。
 あと、もうひとつ、何かの拍子で水をこぼした後、うかつに雑巾等で拭いてしまうと、金箔がはがれて黒地が浮かび上がってくるので、ここも気をつけましょう。
 漆を塗るのは不経済に感じると思いですが、必要なことです。「仏壇を洗いに出す」という言葉があります。金箔を落として下地を塗り替え、また金箔を張り直すのですが、この下地、漆だからこそ、きれいに取れるのです。漆類以外だったら、木にばっちりと接着塗料が張り付いてしまってボロボロになります。
  漆は高価なものです。でも、そんなことをいっていたら、金はもっと高価ですから、仏具を持つことが贅沢な部類に入ってしまいます。
 今、金は、ものすごい値段になっていますが、物価の上昇を考えてもひと昔前は十分の一ぐらいの値段でした。陛下即位六十年金貨発行のときの金は一グラム1800円ぐらいだったと記憶してます。お寺でも漆の柱のところがありますが、本山の御影堂形式に従ったわけで、決して安上がりと考えたわけではありません。昔は本当に、金箔よりも蝋色の方が価値があったとも言われております。
 鏡面仕上げにするため、何度も磨いては塗り、磨いては塗って、光沢を出します。その数、十回以上の繰り返し工程す。だから、これはこれで贅沢なのです。
 漆を下地に使うときは、ねばりに使うだけですから塗っても広げて平らにするだけです。ですから、部品代と工賃ぐらいな感覚でしょう。
 さて、この漆、実は本物と代用品があります。金もそうですが本金という言葉を使います。この言葉が使った時だけ、本物の金です。ただの金地、金仕様、金染めという言葉も要注意です。本物の金ではありませんから、別に詐欺ではありません。世の中そうなっています。本革仕様と表示されてなく、革仕様だったら、合成ビニールでも通用しますから。
 本漆とは呼ばれず、ただの漆にあたるものは、ほぼカシューという名前です。漆使用と表示されていたらたいてい、このカシューです。カシューも木の名前です、カシューナッツの中から出た油を使います。なぜ、使うかというと、その油が漆と、ほぼ同じような分子構造だからです。
 安価の上、漆のようにかぶれない、ですから、代用として用いられることになりました。ですが、これもまた初期に採用されたとは、今の箔糊のような立場でした。金との相性を合わせるため、溶剤を使ったために、きれいに金箔をはがせないのです。
 良心的な仏壇屋さんは、お洗濯をする前に、「この仏壇は洗えないよ」と言われることがありますが、これは嘘ではありません。未熟な技術の時のカシューが使われているからです。仏壇が飛ぶように売れた時代があり、そのとき、こだわりの注文や、よほどの上物でない限り、この仕様でした。購入するとき、きちんとアドバイスを受けていれば、そのようなことは無かったのですが…
 あと、その洗濯に出した時も要注意でした。よくない仏壇屋はカシューを使う可能性がありましたから。
 当時はすぐに見分けることができました。溶剤特有の揮発性の刺激臭がします。もしかしたら、それが新品の匂いだと思って喜んでいた人もいたかもしれませんが。
 そのカシューも、今では修復しやすくなり国際的にも信用が置ける物質となっています。もともと、漆にはウルシオールという成分が主です。このウルシオールが弱い人をかぶれさせるのです。また、漆自体も揮発性が高いので、安全対策が厳しい国は用いることがなくなりました。それでは困るので、カシューにいろいろな改良を重ねて今の形にしたのです。
 そのようなことで、お寺でも柱の陰や見えない場所にはカシューが用いられています。金箔の下地なんて、まさに見えない場所ですので。昔のイメージが頭に残っている住職は嫌いますが、今は普通です。
 ですが、漆黒に吸い込まれるような感覚になる蝋色だけは、どんなに改良を重ねてもできません。そういうことで、すみ分けをしています。もう刺激臭はなくなり、実際見分け方は冗談で、「漆に弱い人を連れてこなければ」というレベルまであがりました。だから、もし業者に聞かれても、こだわらなくていいと思います。

 今回は、ここまでにしておきます。付随写真(写真下)として同朋新聞の『蓮如上人御影道中』をつけておきました。こちらも、去年、説明をしました御本山で行われる大切な春の行事の一つです。