第五十八回 お内仏の荘厳(繰出位牌二)


八月に入ります。お盆を迎え先祖のことを省みる時期になりました。お盆の説明につきましては過去の八月のコーナーを読んでください。一通り説明しております。
今月も繰出位牌(写真上)のお話です。位牌の話を語るには先祖がつきものです。くしくも、新盆の七月、そして八月に先祖のお話をしますのは、話の流れからなったのですが、何か縁を感じます。
では、この繰出し位牌ですが、家によってさまざまな用い方をしております。たいていのお内仏は一基だけなのですが、なかには二基どころか三基もあり、最高では四基のところもありました。そのような家のお内仏は、置く場所はなくなり、結局、下の段に置くことになります。もちろん理由がありまして、
①一つ目の理由は勘違い特に敬いのしすぎのケースです。どういうことかと申し上げますと、新たに亡くなられた人が出られたとき、中には何も記入されてない板が残っているのにかかわらず、新しく繰出しを購入する家です。
本来なら、いくら、見た目が古くなっても、代替わりをされても買う必要はないですが、気分的な問題でしょうか、購入してしまうのですね。中には、完全に禅宗のお位牌と同様に扱ってしまって、亡くなられる度に購入した人もいました。
②二つ目は亡くなられた人の数が多すぎて、たしていたらいつのまにか複数必要となった場合です。お参りをするところには、先祖代々、幾代も続いておられる家もいくつかあり、先月も説明をしたような法名軸にされない場合は、この繰出位牌に法名を書くことになります。
表に法名、裏に俗名を書き込む仕様になっていますので、一基に7,8人しか入れることができません。それ以上に増えることになりますと、位牌は二基、家によっては三基ということになります。
このような、亡くなられた人が多い家庭の繰出位牌には、興味深いこともいくつか起きてます。
①まずは、中の板の表と裏に別の法名が書かれていることがあるのです。一枚の板に二人の法名、初め拝見をした時は、そんなこと考えず見逃してしまいました。このような法名は例外なく、大昔のものですから、50年忌はとっくに終っていたので、法務自体には影響はありませんでしたが。
ひと昔前は、たいていのお寺は役僧を数人雇っていました。そのなかの僧侶が、頼まれたときに表に法名、裏に俗名という方式を知らずに書き写したか、当主自身が整理のために書き写したということでしょうか。
②次には、板の大きさや太さが全く違うことです。こちらの板はペラペラ、こちらの板は分厚い、また、こちらの板は位牌にきちんとはまるサイズ、こちらの板はスカスカということです。
法名については年度順に書かれている家がほとんどですが、中にはどうしても解せないような家があります。なぜ、年度をそろえると、でこぼこになるのだろうと? そこの家の人に聞いてもなんともいえない顔をするだけで、やはり事情は分かっていないようです。
その並べると、でこぼこになる理由はわかりませんが、板が二種類以上ある理由は明確です。①買いたすときにサイズのことを考えずに購入してきた。②仏壇屋に行ったら立派なものがおいてあったから、そっちを買ってきた。③仏壇を洗濯したり購入したとき大きな位牌がついてきた。というようなことが考えられます。
板の太さは、やはりそのころ物資が乏しかったのか、時代でしょう。うっかり強い力を入れると割れそうなものもあります。黒ずんで文字の見えにくいのもありますが、気を付けて扱ってください。
このように、位牌を複数お持ちの家庭がありますが、複数の位牌を持つことは必ずしも、具合が悪いことではありません。区別の為に必要なときもあります。
それは、断言まではできませんが、二つの家柄が関係している時です。家柄という言葉から見ても本家新家(ほんやしんや)の関係ではありません。
人は家にも様々な事情があり、亡くなられた方を、大切に思っております。この場合も次のようになります。
①一例目は家に嫁に入った者、または婿に入った者が、実家の親の位牌を持ってきた場合です。ひと昔前は、これまた勘違いな心で持ってきた場合がありますが。今では事情が変わりました。本当に跡を継ぐ者がいなくなったので、せめて、お位牌をだけでもと持ってくるのです。同じ宗派だといいのですが、中には禅宗の方式を本願寺に転換してということも。さすがに、そこの宗派の本尊や仏様を持ってきて、お内仏に入れることはだけは絶対認めませんが、位牌までは仕方がないでしょう。
②二例目は、逆のパターンです。嫁いでいった娘や、養子に行かれた息子が向こうで葬式をされているのにもかかわらず、写させてもらっておいている場合です。こちらも親としては、亡くなられた子供の命日だけは、忘れないようにしておくという気持ちなのでしょうか?
さて、そのような場合はどうしているのでしょうか。そのために繰出位牌には、あるものが入っております。写真にあるようなカシュー塗りの一枚の黒い板です。仏壇屋に聞きましたら、この板に苗字を入れて、先祖代々と金色の文字で書くということらしいです。『〇〇家先祖代々』というような風に。このようなことで、複数の繰出位牌も意義が出てくることがあるのでしょう。
もともと本願寺公式の仏具ではないので仏壇屋さんの言葉を聞くしかありませんが。この先祖代々の黒い板の向こう側に、50回忌を終えた人たちの法名を移される仕切り、としても使う方もおられるということです。多少はなるほど、とは思いました。確かに50回忌をすぎてしまえば、亡くなられた方は先祖になります。
さて、その黒い板への文字書き込みですけど、お寺ではできませんので仏壇屋に頼むことになります。そして漆黒のカシュー塗りの板に文字を入れるとなると、その方法は限られてきます。
金箔を溶かした顔料で細い筆を用いて金色の文字を書くか、板に字をあらかじめに彫り込んで、彫り込んだところに金箔を溶かした溶剤を流し込むということになります。前も説明をしましたが金は形を変えることがあっても、質量は紛失しない限り絶対に減りません。かえって溶かした方が、すぐ風に飛ばされてしまう金箔よりも質量が残る可能性が高いです。金箔はお内仏のあちこちに用いられておりますので、その時、改めて説明させていただきます。
なお、表紙の写真はお盆に荘厳する切子灯籠(写真下)の上部です。

