第三十一回 お内仏の荘厳(序)

 報恩講も終わり、本山の春の法要も終わりました。
 お盆までは、さしたる行事もないので、毎年五月六月は大きな法要は御座いません。
 ただ、宗祖親鸞聖人750回御遠忌法要を、人が集まりやすいゴールデンウィークに厳修されるお寺は、いくつか存在します。

 今まで、この場所では、お寺の仏具について説明をしてきました。お寺の、この仏具の役割は何? どうして、このような形をしているの? ということについて説明をしてきましたが、やはり、皆様方にとって関心があるのは身近にあるお内仏(写真上)です。
 実際、お内仏については、御門徒様から幾度か質問を受けました。よって、今月と来月は、まずお内仏について説明をさせていただきたいと思います。

 本願寺のお内仏といいますと金仏壇です。金箔に漆、真鍮の金具でこしらえた荘厳(そうごん)なものです。
 この文章に出てきた荘厳はそうごんと読み、荘厳(しょうごん)とは意味が違ってきます。
 荘厳(しょうごん)と読むときは、このコーナーのテーマなのですが、燭台、花瓶、灯明などの仏様の関する飾りのことを指します。
 荘厳(そうごん)と読んだ場合は、おごそかな、とか重々しいと言う意味となります。  日本語はいろいろと奥が深いです。

 さて、この金仏壇ですが、当寺では御門徒の九割以上が所持しております。実際、本願寺の仏壇と言えば金仏壇となっていますので。
 金仏壇の金箔は、読んで字のごとく金から精製します。
 ですが、金は無限に取れる物ではありません。稀少なものとなります。
 ということで、値段も結構します。また、ここのところ値段も急騰し、二倍以上に跳ね上がりました。
 仏壇を洗濯(金箔を貼り直して新品同様にする)に出そうと思っていた家も御座いましたが、あれこれしているうちに、業者が見積もりを変えてきたということで、断念されることもありました。
 ある意味、贅沢なものなのですが、本願寺は、この金仏壇を大切にしております。
 では、なぜ、本願寺のお内仏は、金仏壇なのでしょうか? 真宗大谷派のお内仏は京都御本山の阿弥陀(あみだ)堂の内陣をもととしています。
 その阿弥陀堂は、浄土思想をもとに建てられております。この浄土思想というのは親鸞聖人に大きく影響を与えた教えです。『正信偈』にも出てこられた、今まで幾度か説明をいたしました七高僧の教えでもあります。
 浄土とは極楽浄土のことです。つまり、本願寺の金仏壇は、極楽浄土を具現していることになるのです。

 極楽浄土というのは、実際、口にはあらわせない世界です。『阿弥陀経』にも説かれていますように、大勢の仏様がいらっしゃる、めくるめく華やかな世界です。
 「極樂國土 有七寶池 八功德水 充滿其中 池底純以 沙布地 四邊階道 銀瑠璃 玻瓈合成 上有樓閣 亦以銀瑠璃 玻瓈硨磲 赤珠碼碯 而嚴飾之 池中蓮華 大如車輪 青色青光 黄色黄光 赤色赤光 白色白光 微妙香潔 舍利弗 極樂國土 成就如是 功德莊嚴」

 という文字が、いくつか出てきます。ですが、決して金ばっかりの世界では御座いません。確かに地面は、金の砂地になっておりますが、銀・瑠璃(るり)や玻璃(はり水晶のこと)瑪瑙(めのう)のような、最高の装飾品をふんだんに使って、張り巡らされているような場所だと説かれております。
 極楽浄土を具現することが、ほぼ黄金になったのには、ある理由があります。
 平安末期に末法思想(まっぽうしそう)というものが、はやりました。前にも説明しましたし、社会の教科書にも載っていますので、あえて、説明をはぶきますが、当時の人たちは本当に、「この世の終わりだ。仏様におすがりするしかない」と思われたようです。それも、より深く思ったのは、持っている物が多い、人たちです。持っている物が多い人たちは、今の生活を失うのを、より恐れました。今の境遇を失いたくない、これも、煩悩の一つです。
 その持っている物が多い人たちは、阿弥陀様を本尊とした大きな本堂を創建しました。東北の平泉という場所は、当時、金鉱があり、金がよく採れた場所らしく、建立した堂内を、金で加工した金箔で飾りました。東北の藤原氏が建てた有名な中尊寺金色堂です。以後、浄土の世界は、金箔であらわすようになったのです。
 当寺も、門徒の皆様方が大切に所持していらっしゃる金仏壇に、よりそう気持ちで、宗祖親鸞聖人750回御遠忌法要の事業の一つとして、内陣を、極楽浄土を具現する金箔仕様にさせていただきました。

 ただ、真宗大谷派の寺院に関しては、決して、金箔ではなく、白木仕様でも間違ってはおりません
 御本山には阿弥陀堂よりも、一回り大きい本堂である御影堂(ごえいどう)というのが存在します。
 そして、その御影堂の方が重要視されております。
 こちらは、宗祖親鸞聖人を中央に安置しており、柱や鴨居は、御聖人の飾らないお気持ち、をあらわすため、金箔を貼らず、白木のままとなっております。とは申しましても、年月がたっておりますので、焦げ茶系の色に変色をしておりますが。
 木というものは年月がたてばたつほど、風格が出るものです。サッシでいえば、よく好まれるブロンズ色です。
 実際、木から艶が出て、飴色に染まった柱はいいものです。
 このような仕様は、芯がある丈夫なものだけしかできません。木は腐りますので、板場とか薄い木の場所には防腐用の対策をしなければなりません。そのため、漆(うるし)仕様になっております。そして、長い年月の間、壊れないようにするために金具で補強もしてあります。前回も説明しましたが、金具そうろうでは、見てくれが悪いので、それなりに装飾をしてありますが、
 御影堂でも、壇框(だんかまち)、御聖人像の上の格天井(ごうてんじょう)が、そのような仕様になっております。
 当寺も格天井については、金箔は、あまり用いない、漆と金具の御影堂仕様(写真下)です。

 京都御本山は両堂形式となっておりますが、一般寺院は本尊は阿弥陀様なので、各家のお内仏は阿弥陀堂内陣がもととなっているわけです。
 上の写真は、その阿弥陀堂仕様の格天井、お内仏から撮らせていただきました。
 阿弥陀様の頭上を総金箔でおおっております。