第三回 欄間(其の三)

 今回は余間の欄間について説明をさせていただきます。右二面、左二面、計四面に中央同様に天人が彫られています。
 さて、この余間の彫物ですが、花と一緒に極楽に住む鳥たちが彫られているところが多いです。
 その鳥たちの一種に迦陵頻伽(かりょうびんが、梵語でカラヴィンカの音訳)がいます。迦陵頻伽は仏教説話上の鳥で、『阿弥陀経』に「白鵠・孔雀・鸚鵡・舎利・迦陵頻伽・共命之鳥」と出てきます。
 白鵠は、白いくぐい、白鳥の一種です。舎利はシャーリカと呼ばれ、百舌鳥(もず)と音訳されています。共命鳥というのも説話上の鳥で、一つの体に二つの頭首を持っていると言われています。
 迦陵頻伽も大きな特徴があり、上半身は天人の姿なのですが、大きな羽根をつけており、下半身は鳳凰(ほうおう)となっております。この迦陵頻伽が両手で、さまざまな楽器を持って楽を奏しています。
 極彩色の絵ですと、荘厳で、あでやかなものなのですが、単色の彫物にすると奇妙な姿に映ってしまうので、ほとんどの仏閣(当寺を含め)が、受け入れやすいように羽衣姿の天人で代理をしています。
さて、この迦陵頻伽という鳥は、何度聞いても飽きることのない比類なき美声で鳴き、仏の声を伝えるものと記されております。
 それは、仏の教えが、論理的に考えることを超えた世界であり、永遠のものであるということを暗示しているのではないでしょうか。
 実際、そのような仏の教えは、簡単に理解ができるものではありません。迦陵頻伽の奏でる楽は、その仏の声を伝えるときの、補助的な手だてとも考えられるのです。
 そもそも、楽というのは何なのでしょうか?
 偉大な作曲家を含め、世界的なミュージシャンたちは、次のような言葉を、皆様方に答えます。
 ”音楽こそが、世界的にわかりあえるものだ、私たちはこの音楽によって、皆様たちの心に感動を与える”と。
 前回も同じようなことを申しましたが、言語は国によって違います。しかし、楽は言語が通じなくても、相手に伝えたいことが伝えられるということです。
 この日本には、その楽について興味ある説話があります。『日本書紀』に記載されている「天岩戸」です。

 このお話は、弟の神様の乱暴に嫌気がさして、姉の天照大御神が、洞窟に戸を閉めて隠れてしまうのですね。
 その結果、世界は真っ暗闇になってしまった。
 無理やりに扉をあけようにも、岩戸はしっかりと閉まっており、まったく開かない。ほんの、わずかな隙間さえあれば開くのに。
 困った神々たちは相談して、演奏会を開くことにしました。道具を使って面白い音を色々と出せば、興味を持って岩戸を開けてくれるだろうと。
 その計画は成功して、天照大御神が、のぞくように少し扉をあけたところ、怪力の神様がその扉を全開させ、光が戻ったという話なのです。
 この話のポイントは、楽が、相手に聞かせることによって、そのときの状況を想像させ、その相手の心を動かした、ということです。
 話がくどくなりますけど、楽は、言葉を使う代わりに意思を伝える手段ということになるのです。これで、迦陵頻伽が欄間に彫られている意味も、なんとなくお分かりになったと思います。
 さて、次は当寺の迦陵頻伽=天人の持っている楽器について目を通しましょう。
 左側から順に説明をしますと、一面には琵琶(びわ)、鞨鼓(かっこ)、二面には火炎太鼓(かえんだいこ)と笙(しょう)、右に入って三面目には、龍笛(りゅうてき)と胡蝶(こちょう)、四面目には手平鉦(てひらがね)と鉦鼓(しょうこ)などの金属音を鳴らす楽器です。
 一面:琵琶は弁天様が持っていますから有名ですね。鞨鼓というのは、ばちでたたく、大鼓(つづみ)のことです。
 二面:巴模様の火炎太鼓、これもよく見かけますね。笙ですが、これは独特なものです。下方にある管から息を吹きかけて音を出す楽器です。
 三面:龍笛というのは横笛の一種です。胡蝶は舞いに使うアクセサリーのようなものです、日本では扇子で代用していることが多いです。
 四面:手で持つ銅鑼と金製の太鼓ですか。これらオーケストラで演奏をしているのです。
 あと、欄間には用いられませんでしたが、和楽では、これらのほかに弦楽器では琴、木管楽器では縦笛の一種である篳篥(ひちりき)、打楽器では手で掲げることができる三の鼓、小鼓が存在します。
 ひな祭りの五人組が同じようなものを持っていますね。五人囃子は笛一種に、太鼓、大鼓、小鼓と謡(うたい)手。五楽人の場合は、笙、篳篥、龍笛の三菅と火炎太鼓、大鼓です。琵琶、琴、持ちの七人組も存在します。
 真宗大谷派では、この五楽人で雅楽を奏しています。
 今、雅楽と申しましたが、それが正式名です。
 もとは大陸が発祥で、ベトナム等を含むインドシナ半島や朝鮮半島の民族音楽が大陸に集まり中国本土で融合し、南北朝時代に形が整えられ、遣隋使を通してわが国に伝えられたということです。実際、迦陵頻伽はガルーダ(おそらく、伝承されたときに十二神将の鳥の神、迦楼羅と混同)として扱われ、踊り手が、鳥の神様の仮面と羽根をつけた姿に扮装して演じています。
 その後、日本様式に整えられ、宮中をはじめ日本で行われる大きな行事の度に奏されることになりました。

 わが大谷派では、本山や別院、若干の一般寺院の報恩講では毎年、奏しております。
 当寺も、宗祖親鸞聖人七百五十回御遠忌法要には、奏でられますので興味がある方はご来寺してください。

 次回から、それら大法要に関係ある仏具について説明させていただきます。