第十六回 報恩講の荘厳 五具足(二)



 報恩講のお話にあたり、十四回では五具足について説明をさせていただきました。
 具足というのは、整った一式という意味です。
 普段は三具足で、机のような台である前卓(まえじょく=写真1)の上に、本尊に向かって左側に鶴亀の形の燭台(しょくだい)、真ん中に青磁仕様の土香炉(どごうろ)、そして右側に花瓶(写真2)を一つおきます。
 五具足とは香炉を真ん中に、燭台が一対、花瓶が一対になったものをいいます。

 よく、御門徒のかたから、次のような質問を受けます。「法事の時に鶴と花を二つずつ飾るのは、おかしいでしょうか?」という。
 正式に答えますと間違っております。お寺でも自坊(じぼう)の法事では飾りませんので。
 ですが、お寺は報恩講を勤修します。対して、皆様方のお内仏ではどうでしょう。前も説明をいたしましたが、半世紀前までなら、同行の人たちが集まっての、おとりこし(お内仏での報恩講)が各地で存在していました。
 今はそのような機会が、ほぼなくなりました。よって、五具足を飾ることもなくなりました。となると、今まであった五具足はどうなるのでしょうか?
 本山からのパンフレットにはそのような記載がありませんが、ほとんどのお寺の住職は、皆様方が法事の時に五具足を飾ることを認めています。よほどの頑固ものでない限り問題はないでしょう。
 逆に推奨する住職もいます。私も推奨とまではいいませんが、それに近い形で門徒と接しております。
 ここからは個人的な意見ですが、せっかくお内仏に五具足が用意されているのに、それを一度も使わないということは、お内仏に失礼だからと思っているからです。
 せめて親戚方が集まり、その仏縁に出会ったとき、お内仏に用意されている(しまってある)すべての仏具を、できるだけ飾ることが大切だと教えております。
 これは、荘厳というのは仏様の教えを具現的に表していることを自覚しているからです。
 もともと、このコーナーを作ったのも、そのことを皆様方にお教えしたいという願いからです。
ですが、最近は残念なことになってきました。葬儀が葬儀場へと移ってから30年、法事も様々な理由で、自宅以外で行うご家庭が増えてきたからです。
 お寺を使われる方が(葬儀場は別途費用がかかる)日増しに増え、ありがたいのですが、心の中では、”この家の五具足は、二度と日の目を見ることはないのだろうなあ”と思ったりもしています。
 五具足は、お内仏の三具足が飾られている場所に同じように並べます。普通なら、燭一つを二つに、花一つを二つにする、と答えるのですが、普段用と入替をするところが、結構ありますのでこのような言葉にさせてもらいました。
 当寺もそうなのです。三具足には簡易物を用意しています。鶴形の燭は彫りのうすいもの、花瓶も京丸型という、のっぺりとしたものを用いてます。
 彫りが深くなると、おみがきを含め維持が大変だということもありますが、何よりも報恩講は大きな法要ですので、特別に使い分けております。

 では、改めて五具足の配置につきまして説明をさせていただきます。
 燭は真ん中に香炉をはさんで、二本を中央に並べます。左側が鶴亀の口が開いた状態で、右側が口が閉じた状態です。正しい配置になりますと、鶴の口元から出ている前垂れのようなものが正面になります。亀の尻尾も前の方を向きます。
 蓮軸の方も、蓮の実を真正面にして、互いに蓮のつぼみが内側になるようにします。その蓮軸の上に赤いろうそくを二本立てます。(十四回の写真参照)

 花瓶は左右の端っこに配置します。ここで注意をすることは向きです。五具足ともなりますと、ほとんどが本願寺の正式仕様のものになります。丸型、角形の違いがあるのですが、 仕切りのようなものがあって四つの部分に分かれています。
 飾るときは、その仕切りといいますか、とがっている部分を正面にします。平ぺったいところを正面にする方がみえますが、それは間違いです。花の方も、その向きに合わせて正面にたてます。
 正式な花瓶となりますと、地に本願寺の御紋が掘ってあります。二種類(写真参照)ありまして、抱牡丹(だぼたん)と八藤紋(はっとうもん)です。抱牡丹を外側に八藤紋を内側にします。そうすると二つの御紋を同時に見ることができます。
 お寺では、大きな花を安定した形で飾れるように、耳付花瓶を用いるところもあります。

 五具足の配置について、もう一つ注意をすることがあります。五具足を飾る前卓には下須板(げすいた)と呼ばれる天板があります。
 この下須板なのですがお内仏によっては二枚あります。写真で見るとわかりますが、斜めに飛び出た筆返し(ふでがえし)がついたものと、ついていない二枚です。一間ぐらいの大きさのお内仏だと、大抵は用意されておりますのでご確認ください。
 五具足を飾るときは、二枚目の筆返しのついてない方の下須板を用います。筆返し付きの下須板は、お内仏から取り出してどこかに安置しておきます。
 そして、その筆返しのついてない下須板を持ち上げて打敷(うちしき)を掛けます。大法要になりますので水引(みずひき)がある方は、水引を打敷の下に掛けてください。
 掛け終わった打敷の上に下須板を戻し、その上に五具足を飾ります。筆返しがあるときとは違い、左右端っこに余裕がもてますので、飾りやすいかと思います。

 五具足には金香炉がセットについておりますが、中央には青磁の土香炉(大谷派透香炉)を飾ることをお勧めします。そのことについて、色々と説明をしたいこともあるのですが、混乱を招きますので、また別の機会にさせていただきます。
 今回は五具足の配置について説明をさせていただきました。結構、細かく面倒かとお思いですが、荘厳というのは、そのようなものだとご理解願います。